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エンゲージメント

いきいき組織づくりのキーワード 「エンゲージメント」 ~中小企業ならではの「割り切り」戦略~

いきいき組織づくりのキーワード 「エンゲージメント」(中小企業ならではの「割り切り」戦略)

キーワードから「いきいき組織づくり」を考えるシリーズ。今回のキーワードは「エンゲージメント」です。

1.エンゲージメント低下に中小企業はどう対応すべきか

「エンゲージメント」については、2022年9月に3回シリーズで記事にしたことがあります。「日本企業のエンゲージメントの低さ」という問題がクローズアップされるようになったなかで、「エンゲージメント」という概念の正しい理解から、中小企業における対応までを整理したものです。

エンゲージメントの高い企業

今回は中小企業のエンゲージメント向上策について、「自社の方針・価値観に適した方略は何か」という観点から考えていきたいと思います。

1-1. エンゲージメント低下と「静かな退職」

「自社の方針・価値観に適したエンガージメント方略は何か」を考える意義を理解していただくきっかけとして、「静かな退職」を取り上げます。

「静かな退職」は、エンゲージメントの低さとセットで語られることが多くなった課題です。「静かな退職」についても、約1年前(2025年11月)に記事しています。

「静かな退職」状態の社員

エンゲージメントの低さと「静かな退職」は、低エンゲージメントという社員の内面(見えないもの)が、「静かな退職」という態度・行動に表出するという関係だと思います。「静かな退職」への対応を迫られている企業は、エンゲージメントの低さとワンセットで問題を捉える必要があります。

「静かな退職」への対応を迫られている企業は、エンゲージメントの低さとワンセットで問題を捉える必要があります。

1-2. 中小企業を蝕む負の連鎖

中小企業の場合、大企業と比較して各人の業務範囲があいまいであり、個人の裁量や従業員同士の助け合いで現場が回っているケースも少なくありません。

そのような組織においては、一部社員の「静かな退職」状態が放置されたままになると、他メンバーの負担増や助け合いへの支障といったしわ寄せ現象が表面化し、組織に亀裂が生じやすくなります。そのことが「静かな退職」状態以外の従業員のエンゲージメント低下も招き、結果として組織全体のエンゲージメントが低下してしまいます。

中小企業を蝕む負の連鎖

さて、ここで1つ質問です。

「もしあなたの会社がこのような状態に陥っている場合、経営者として組織全体のエンゲージメント低下を回避するために、どのような方略を講じますか。また、その場合、どのような自社の方針・価値観を前提としていますか」

1-3. 「静かな退職」を許容するか否か

「静かな退職」を企業の側から見た場合、それを許容しない組織と、それを許容する組織に大別されます。どちらを選択するかは、その会社の方針・価値観の問題であり、どちらかが正解というものではありません。しかしどちらを選択するかにより、先の質問への回答は大きく異なってくると思います。言い換えれば、「『静かな退職』を許容するか否か、という自社の方針・価値観によって、自社に有効なエンゲージメント方略も異なってくる」ということです。

筆者は以前の記事でも述べたように、「『静かな退職』状態の社員であっても組織に貢献できる」というスタンスであり、それを許容する組織づくりが必要ではないかと考えています。

静かな退職

その場合、従業員を①成長やキャリアアップを重視する「成長志向」人材、②成長やキャリアアップ以外のことを重視する「安定志向」人材(「静かな退職」状態の従業員を含む)、という2タイプに分けると、整理しやすくなります。

従業員を①成長やキャリアアップを重視する「成長志向」人材、②成長やキャリアアップ以外のことを重視する「安定志向」人材(「静かな退職」状態の従業員を含む)、という2タイプに分ける

上記のように整理した場合、「成長志向」人材と「安定志向」人材では本人が求めるものが異なるため、それを考慮したエンゲージメント方略が求められます。

一方で、「静かな退職」を許容しない組織づくりを推進する企業の場合、主に「成長志向」人材にフォーカスしたエンゲージメント方略が有効になるのではないかと思われます。

このように、自社の方針・価値観によって、自社に有効なエンゲージメント方略も異なってきます。

2.何のためのエンゲージメント向上、誰のためのエンゲージメント向上なのか

企業のエンゲージメント向上について考える場合、「エンゲージメント向上」という言葉だけが先行してしまい、「何のためのエンゲージメント向上なのか」「誰のためのエンゲージメント向上なのか」ということが抜け落ちた対策も少なくありません。

2-1. 「エンゲージメントの向上→生産性向上への寄与」という図式

企業がエンゲージメント向上に取り組む大きな理由の1つは、それが生産性向上に寄与するからです。その前提には「エンゲージメントの向上→従業員の貢献意欲・成長意欲の向上→高いパフォーマンスの発揮」という図式が描かれているのではないでしょうか。

これを従業員の側から見ると、この図式が当てはまるのは1-3で述べた「成長志向」人材だと思われます。確かに、高エンゲージメントの中小企業の成功事例などを見ると、会社に愛着を感じ、やりがいと成長意欲に満ちた従業員が大半を占め、高いパフォーマンス発揮で貢献する姿が描かれています。

「成長志向」人材のエンゲージメントを高めるためには、成長やキャリアアップというかたちで社員に報いることが必須です。

「エンゲージメント向上による生産性向上」の図式

2-2. 成長支援やキャリアアップ支援が逆効果になる?

しかし、多くの中小企業は「成長志向」人材だけで構成されているわけではありません。むしろ、かなりの割合で「安定志向」人材が存在する組織のほうが一般的でしょう。そのため、「成長志向」人材のみならず、「安定志向」人材も含めたエンゲージメント向上に取り組むというのが、現実的な課題になるのではないかと思われます。

誤解してほしくないのは、「安定志向の人材=エンゲージメントが低い」という単純な図式ではないという点です。「安定志向」人材であっても、「雇用・収入の安定」「働きやすさ」「ワークライフ・バランスの確保」「社員を大切にしてくれる」などの理由でエンゲージメントの高いは存在します。

一方、「安定志向」人材にとって、成長やキャリアアップに報いるようなエンゲージメント施策は不必要なものです。「成長」「挑戦」「キャリアアップ」という言葉にアレルギー反応を示す人もいるぐらいです。

そのため、成長支援やキャリアアップ支援が強調されすぎると、居心地の悪さにつながり、それまで高エンゲージメントだった「安定志向」人材のエンゲージメント低下を招くおそれがあります。最悪の場合、離職に至ることもあるでしょう。

「安定志向」人材のエンゲージメント向上

このように「誰のためのエンゲージメント向上なのか」という視点が抜け落ちると、このような逆効果を招くこともあり得るのです。

2-3. ぬるま湯組織への転落(成果を無視したエンゲージメント向上)

一方、人手不足に悩む企業などで、「従業員に嫌われないこと(居心地の良さ)」だけを目的にエンゲージメント施策を実施してしまうケースもあります。その場合、「給与や人間関係に不満はないが、成果も上がらない」という人材が多くなる「ぬるま湯組織」に転落してしまいます。エンゲージメントは高いのに、生産生の向上には寄与しない組織です。離職防止という観点では効果があるのかもしれませんが、そのような組織では好業績を期待できないでしょう。

ぬるま湯組織

このように「何のためのエンゲージメント向上なのか」という視点が抜け落ちると、エンゲージメントが向上しても組織の活力が低下するという事態を招くこともあります。

2-4. エンゲージメントが低いが、高いパフォーマンスを発揮する人材

さらに別の視点で考えてみましょう。エンゲージメント向上に取り組む大きな理由が生産性向上への寄与であるとすれば、エンゲージメントが向上せずとも、生産生向上が実現するのであれば、それでかまいわないという組織もあるかもしれません。

実際、エンゲージメントが低いが、高いパフォーマンスを発揮する人材は存在します。エンゲージメントが低くても、そこに合理的なモチベーションが確保されていれば、高いパフォーマンスを発揮します。

エンゲージメントが低いが、高いパフォーマンスを発揮する人材

もし経営者が「高パフォーマンス集団」という自社の方針を重視するのであれば、(無視するわけではありませんが)エンゲージメント向上という課題への優先順位は高くないのかもしれません。

3.理想を捨てた「割り切り」戦略のススメ

3-1. 中小企業のエンゲージメント方略としての「割り切り」戦略

(1)理想よりも自社に合った現実的なエンゲージメント方略を見出す

2-1で示したように、「全従業員のエンゲージメントを高める」というのが中小企業のエンゲージメント方略の理想と映るかもしれません。

しかし、2-2で示したように、「成長志向」人材が大半を占める企業以外は、その理想の追求は非現実なものでしょう。教科書通りの「さあ、みんなでエンゲージメントを高めよう!」というお題目(理想)は、現場に「やらされ感」を生むだけです。

そこで中小企業のエンゲージメント方略として、非現実的な理想を捨てた「割り切り」戦略を検討したいと思います。ここでいう「割り切り」戦略とは、「どこかに注力する分、どこかを諦める」という現実的なエンゲージメント方略(※)をさします。

※エンゲージメント方略
エンゲージメント向上を目指すものだけではなく、エンゲージメント向上にこだわらないものも含みます。

(2)「どこかに注力する分、どこかを諦める」とは何か

「どこかに注力する分、どこかを諦める」とは、「組織として優先して実現させること(注力する)、その代償として未実現でもやむなしとすること(諦める)」という自社の方針・価値観(=目指すべき組織の姿)を明らかし、それを社内で徹底することです。そういった方針・価値観を明らかにすることで、自ずと「何のための、誰のためのエンゲージメント向上なのか」ということも明確になります。

このように、「割り切り」戦略とは、自社が目指すべき組織の姿(方針・価値観)を明らかにし、そこを起点としたエンゲージメント方略を打ち出すものです。また、方針・価値観によっては、エンゲージメント向上が前面に出てこないケースも考えられます。

「どこかに注力する分、どこかを諦める」とは何か

4.4つの「割り切り」戦略

「割り切り」戦略のイメージを掴んでいただくために、企業特性に合わせて、4つの「割り切り」戦略を試案してみました。

4つの「割り切り」戦略

4-1. ①超・脱人依存(プラグイン型)組織

最初の方略は、「超・脱人依存(プラグイン型)組織」です。

「超・脱人依存(プラグイン型)組織」

具体的には、完全マニュアル化やデジタル化を推進することで、誰が担当しても定められた基準以上の成果が出る仕組みを構築するものです。言い換えると、特定の人材に依存しない業務体制を構築するものです。誰が担当してもマニュアルの手順を取り入れる(=プラグイン)ことで、安定的な品質を確保することが期待できます(脱人依存)。

最低限の成果に達することができれば、「静かな退職」状態も許容します。また、人員の入れ替え、未経験者の即戦力化も容易なため、人員配置やシフト管理も容易となります。仮に、離職者が出た場合でも、そのダメージを最小限に抑えることができるでしょう。

こうした脱人依存の組織体制を確立できれば、エンゲージメントの高低が生産生に及ぼす影響は小さくなり、組織として無理にエンゲージメント向上に取り組む必要性がなくなります。

今後AI化、ロボット化などが発展・普及すれば、そもそも人が不要な組織となる可能性もあります(超人依存)。

4-2. ②プロフェッショナル・ギグ型組織

2番目の方略は、「プロフェッショナル・ギグ型組織」です。

「プロフェッショナル・ギグ型組織」

具体的には、成果に見合った報酬を支払う成果主義の評価・報酬制度を整備するものです。「プロフェッショナル・ギグ型組織」の名称のとおり、社内のプロフェッショナル人材のみならず、外部の専門スキルを有する人材をギグワーカーとして活用することも含まれます。

一方で、専門スキルを有するプロフェッショナル人材による個人のハイパフォーマンスを基盤とするため、従業員の一体感、チームワーク、従業員同士の助け合いなどは期待しません。ドライな人間関係が基本となります。

「静かな退職」状態の人材のなかには、仕事はお金を稼ぐための手段であり、対価に見合わない仕事はしたくないというコスパ重視の人がいます。コスパ重視の人にとって、成果に直結しない社内イベントやウエットな人間関係は煩わしいものです。その点、「プロフェッショナル・ギグ型組織」は、無駄な社内イベントはなく、ドライな人間関係を想定しているので、専門スキルを有する人材であればコスパ重視の働き方を実現できます。

さらに、コスパ重視のプロフェッショナル集団というイメージを確立できれば、ギグワーカーとして活用していた外部人材を社内に取り込むことも期待できるかもしれません。

コスパ重視タイプ以外の「安定志向」人材は、徹底した成果主義には馴染みません。成果が低ければ、低賃金となるだけです。その結果、離職する社員もいるかもしれません。しかし、それをやむなしとするのが割り切り戦略です。

4-3. ③超ローカル安定型組織

3番目の方略は、「超ローカル安定型組織」です。

「超ローカル安定型組織」

具体的には、既存事業の収益が安定していることを前提に、「地元で転勤なく、安定した生活を送りたい」「家族との時間を大切にしながら、長く働きたい」といった地元の雇用ニーズに応えるものです。地元の「安定志向」人材のエンゲージメント向上を期待できます。

また、地元志向という共通項を土台に心理的安全性を担保し、会社全体の一体感、チームワーク、従業員同士の助け合いなどが生まれやすい組織を目指します。このようなウエットな人間関係を重視する点で、ドライな人間関係に徹するプロフェッショナル・ギグ型組織の対極にある方略かもしれません。プロフェッショナル・ギグ型組織のような個人のハイパフォーマンスは期待できませんが、それを組織力・チームワークで補っていこうとする組織です。

ただし、一歩間違えると2-3で述べた「ぬるま湯組織」へ転落するリスクもあるので、雇用の安定によるエンゲージメント向上を、貢献意欲の向上、安定した成果に結びつける必要があります。その場合、「成果」を強調するよりも、「地元への貢献」「地域の活性化」といった観点からの貢献を強調するほうが、地元を愛する従業員のパフォーマンスにつながるでしょう。「地域の誇り」を目指すことが大きなモチベーションになるはずです。

留意すべきは、「安定志向」人材が多い構成となるため、新規事業や新たなイノベーション創出へのチャレンジはあまり期待できません。一方で、「成長志向」の社員も少数ながらも存在するはずなので、そういった社員を選抜して、新規事業やイノベーションの機会を探索する別働隊を作ることも、持続的成長のためには必要かもしれません。その場合には、評価基準や報酬も別枠で制度を整備する必要があるでしょう。

4-4. 4つの「割り切り」戦略④キャリアアップ前提組織

4番目の方略は、「キャリアアップ前提組織」です。

「キャリアアップ前提組織」

具体的には、「成長志向」の人材を集めるために、「うちの会社をステップアップに使っていい(いずれは退職してもいい)」と公言して採用し、新規性の高い事業の立ち上げに短期集中で挑戦してもらうものです。「成長志向」の若手人材にとっては、仕事はハードですが、大企業では経験できない裁量・責任を付与されるため、「やりがい」「成長機会」というご褒美を得ることができます。

基本的に「成長志向」人材を採用するため、「安定志向」人材はほとんど存在せず、「静かな退職」状態はほとんど発生しません。その意味では、エンゲージメントを高めやすいといえるでしょう。ただし、いずれステップアップのための転職や独立というかたちで退職してしまうので、「期間限定の高エンゲージメント」となります。

期間限定ですが高エンゲージメントを維持していれば、退職後も業務を委託したり、顧客を紹介してもらうなどのアルムナイネットワークとして活用することも期待できます。

以上、4つの「割り切り」戦略を試案してみました。これら4つの戦略は極端な企業の姿に映るかもしれません。しかし、少し極端に描いたほうが自社の目指す方向性がイメージしやすくなるはずです。この4パターン以外にも自社に合った「割り切り」があるかもしれません。いずれにしても「何に注力し、何を諦めるのか」を明確にすることで、自社のエンゲージメントへの現実的な向き合い方の解像度が上がると思います。

5. 割り切りが最終的にはエンゲージメントを高める

4つの「割り切り」戦略は、一見すると、「エンゲージメントの向上に言及していない」「エンゲージメントの向上を諦めている」と映るものがあるかもしれません。

4つの戦略は、会社が従業員に対して「何が許容され、何か許容されないのか」を示し、従業員がそれを受け入れる組織づくりを目指すものです。「静かな退職」にフォーカスすれば、「『静かな退職』が許容されるのか、されないのか」を示すものです。

どの戦略も割り切ることで、「会社の従業員への期待値と、従業員の会社への期待値のズレが生じにくくなる」という点は共通しています。従業員の立場で考えれば、「自分に合った働き方に対して会社が報いてくれる」状態に近づくことになります。言い換えれば、従業員が「働きやすい職場」「働きがいのある職場」と認識しやすくなることであり、最終的にはエンゲージメントの向上につながります。

「割り切り」戦略がもたらすエンゲージメント向上

「割り切り」戦略のポイントは、「エンゲージメント向上のために、○○といった施策を実施します」といった類いのエンゲージメント向上策ではなく、「自社が目指すべき組織の姿」を実現すること自体がエンゲージメント向上につながるという点です。

実際には、「割り切り」戦略の実現には、人事をはじめとする諸制度の整備などが必要となり、一定の時間・労力が必要です。しかし、「さあ、みんなでエンゲージメントを高めよう!」という不毛な理想を掲げるよりは、はるかに現実的かつ合理的なエンゲージメント戦略だと思われます。

貴社も自社にあった「割り切り」戦略を検討し、現実的かつ合理的なエンゲージメント戦略を検討してみませんか?

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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