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自社の歴史

いきいき組織づくりのキーワード 「自社の歴史」 ~「歴史」を独自資産として形式知化~

いきいき組織づくりのキーワード 「自社の歴史」(「歴史」を独自資産として形式知化)

キーワードから「いきいき組織づくり」を考えるシリーズ。今回のキーワードは「自社の歴史」です。

1.会社の「歴史」は模倣困難な独自資産

1-1. 「歴史」が眠ったままになっていないか?

どの企業にも「歴史」があります。創業から一定年数を経ている企業であれば、自社サイトに「沿革」というかたちで、自社で起こった出来事を時系列で整理していることも多いでしょう。あるいは創業から30年、50年など節目に周年事業として社史を編纂している企業もあるでしょう。

一方で、「自社の歴史を独自資産として活用できていますか」という質問を投げかけたら、胸を張って「イエス」と答えられますか。

この質問に対して、経営者が「イエス」と回答することを躊躇ったならば、自社の歴史が眠ったまま活用されていない状態なのかもしれません。

自社の歴史。独自資産として活用できていますか?歴史が眠ったままになっていませんか?

1-2. 自社の歴史の活用イメージ

「自社の歴史を独自資産として活用する」ということがイメージできていない経営者もいるかもしれません。いくつか具体例で説明します。

(例1)新入社員に自社の経営理念を浸透させる
(例2)既存社員を鼓舞して挑戦を促す
(例3)採用活動で応募者に自社が大切にする価値観を魅力を訴求できる
(例4)自社の強みの源泉を歴史から伝え、顧客の商品・サービスに対する信頼を高める

このように歴史という独自資産は、理念浸透や組織活性化といった社内向け活動(インナーブランディング)のみならず、採用活動や顧客への訴求といった社外向け活動(アウターブランディング)でも活用できます。

1-3. 自社の歴史から「自社らしさ」を掘り起こせているか

1-2で示した4つの例に共通するのは、自社の歴史から「自社らしさ」を抽出・見える化し、それを現在の事業活動に活用しています。

この場合の「自社らしさ」とは、会社の歴史のなかに埋め込まれている「この会社ならではの使命」「この会社が大切にしてきた価値観」「この会社ならではの誇り」「この会社ならではの仕事観」などを指します。この自社らしさは次世代(現役社員)に継承されるべきものであり、その意味で「自社らしさ=企業DNA」と説明できるでしょう。

「自社らしさ(企業DNA)」の抽出

ここで1-1の「自社の歴史を独自資産として活用できていますか」という質問に戻ると、以下の2つの条件をクリアできていなければ、「イエス」と回答できないはずです。

条件1:自社の歴史から「自社らしさ」を抽出・見える化できている
条件2:抽出した「自社らしさ」が現役社員に継承され、実践されている(社内・社外で自社らしさを発揮)

1-4. 「歴史」の資産化は、社史づくりではない

「歴史」の資産化と聞いて、社史編纂をイメージした人もいるかもしれません。

しかし、いくら立派な社史を編纂しても、「古い記録が残っている」だけでは歴史の資産化とは呼べません。1-3で述べたように、歴史が「自社らしさ(=企業DNA)として形式知化され、それが現在進行形で活用できる状態」となって、はじめて資産化されます。

静かな退職

1-5. 時間の経過とともに埋没した「自社らしさ」を再発見する

一定の歴史を有する企業のなかには、歴史と共に紡ぎ出された「自社らしさ」が時間の経過とともに、組織のなかに埋没してしまうケースも少なくありません。

静かな退職

上記のようなケースで、必ずしも「●●のプロフェッショナルであれ」という誇りが完全に消失したとは限りません。組織のなかに残っているものの、無自覚な社員が多いという状況も考えられます。そこで歴史を紐解き、暗黙の誇りを「再発見」し、それを「見える化」することで、全社員が自覚的にその誇りを共有することができます。

1-6. 「歴史」という独自資産が説得力を持つワケ

ここまで見てきたように、自社の歴史という独自資産は組織活性化に大きく寄与します。

歴史が紡ぎ出した「自社らしさ」が現役社員に対して説得力を持つのは、それが「自社の先輩社員が実際にやってきたこと」だからです。「先輩たちができたのだから、自分たちにもできないはずがない」「先輩たちが大切にしてきたものを、自分たちも継承したい」という思いが、現役社員のやる気に火を灯すことができるのです。

静かな退職

歴史は「時間」でしか形成できない資産であり、長い歴史を有する企業ほど組織の質を向上させる大きな武器となるはずです。

自社の歴史を「過去の遺産」ではなく、「未来への羅針盤」として活用してみませんか。

2.「歴史」の資産化の3ステップ

ここでは「歴史」の資産化の実現方法(歴史の中にある「自社らしさ」を社員に継承する方法)を3ステップで整理します。

「歴史」の資産化の3ステップ

この3ステップは、「情報収集→情報整理・加工→情報発信・活用」という情報編集の3ステップを、「歴史」の資産化に応用したものです。

3.「歴史」の資産化~ステップ1: 「自社らしさ」を抽出する

「歴史」の資産化の最初のステップは、「『自社らしさ』を抽出する」です。情報編集における「情報収集」に相当するステップです。自社の歴史を紐解き、出来事の背景にある「自社らしさ」につながる情報を収集します。

3-1. ターニングポイントとなった出来事の背景を深掘りする

(1)ターニングポイントとなった出来事

企業が現在の姿になるまでには、いくつかのターニングポイントがあったはずです。そういったターニングポイントとなった出来事のなかに自社らしさが多く埋め込まれています。たとえば、創業時、成長・成功の契機、経営の危機、新製品開発、新規事業、海外進出、経営者交代などの出来事です。それらのなかから、深掘りする出来事を選びます。

(2)その出来事を知る人(当事者)へインタビューする

深掘りする出来事が明らかになったならば、その出来事を知る人(当事者)へインタビューします。具体的には、OB・OG、経営者、現役役員・社員などです。可能であれば、取引先・顧客などの社外関係者へインタビューする方法もあります。

そうした関係者から、ターニングポイントとなった出来事についての話を聴き出します。聴き出すべきなのは「会社に何が起きたのか」という事実以上に、「そのときあなたはどうしたのか」「そのときあなたは何を考えたのか」「そのときあなたは何を感じたのか」という当事者の行動・意見・感情です。

話の中に、当事者が優先したこと、大切にしたこと、守ろうとしたこと、譲れなかったこと、支えにしたことが反映されるため、「自社らしさ」を抽出しやすくなります。

出来事を知る当事者へのインタビュー

3-2.関係者へのインタビューの留意点

(1)うまくいった部分ばかりではなく、うまくいかなった部分の話を引き出す

関係者へインタビューする場合、知らぬ間に成功した部分、うまくいった部分の話ばかりになってしまうことがあります。

もちろん、そうした話のなかにも「自社らしさ」が埋め込まれていますが、むしろうまくいかなった部分の話のほうが「自社らしさ」がより多く埋め込まれています。

具体的には、「困難をどう乗り越えたのか」「対立をどう解消・調整したのか」「葛藤をどう乗り越えたのか」「苦悩をどう克服したのか」といった話です。こうした内容は後述するように、ストーリー仕立てで語りやすく、現役社員に刺さるものとなります。

したがって、出来事にまつわる困難、対立、葛藤、苦悩などがなかったかを積極的に聴き出すようにしましょう。

うまくいった部分に加えて、うまくいかなった部分の話を引き出す

(2)OB・OGへのインタビューの留意点

一定以上の歴史を有する会社の場合、経営者を含む現役メンバーは知らない話もあるかもしれません。その場合にはOB・OGへインタビューするしかありません。

OB・OGへのインタビューについては以下の点を考慮しましょう。

①高齢であり、長時間のインタビューは負担が大きい
②現場を離れてから一定年数が経ち、当時の記憶がかなり曖昧になっている可能性がある

そのうえで、うまく話を引き出すためのコツをいくつか挙げておきます。

  • 「質問に対する回答を説明してもらう」スタンスではなく、「当時を思い出してもらう」スタンスで聴く
  • いきなり本題に入るのではなく、当時についての簡単な質問で記憶を呼び覚ますきっかけをつくる
  •  「それ、もう少し聴かせてください」で話を深掘りする(その話に興味があることを示し、話を促す)
  • 話題が多少逸れても無理に軌道修正しない(相手に気持ちよく話してもらうことが大事、また脱線話のなかにお宝があることもある)
  • 相手に疲れが見えたら、休憩や雑談で一度リセットする

4.「歴史」の資産化~ステップ2:活用しやすく形式知化する

「歴史」の資産化の第2のステップは、「活用しやすく形式知化する」です。情報編集における「情報整理・加工」に相当するステップです。収集した「自社らしさ」データを、現役社員が活用しやすいように形式知化(見える化)するものです。

4-1. どのように形式知化するのか

(1)概念化・教訓化・物語化

まず収集した「自社らしさ」データを、概念化・教訓化・物語化のように活用しやすい形式知へ変換します。最終アウトプットのための素材づくりというイメージです。

概念化 「自社らしさ」の本質を論理的・客観的に解説する。必要に応じて図解すると、より伝わりやすくなる。
教訓化 概念化した「自社らしさ」の本質を、今後の実践・行動につなげやすい簡潔なフレーズで表現する。
物語化 インタビューで語ってもらった「自社らしさ」を象徴するエピソードを、当事者たちを主人公としたストーリー仕立てで整理する。

(2)活用イメージから逆算してアウトプット形式を決める

次項で述べる活用イメージ(どのように次世代に継承するのか)を想定して、最終的なアウトプット形式を決めます。アウトプット形式には、冊子、手帳、リーフレット、動画、(社員向け)専用サイトなどがあります。

実際の成果物の制作時には、(1)で用意した「自社らしさ」素材に、社史、過去の社内報などの既存資料から確認できる客観的事実を組み合わせて編集すると、社員が理解しやすいアウトプットになります。

ステップ2:活用しやすく形式知化する

4-2. 物語化のススメ

4-1(1)で最終アウトプットのための素材として、「概念化」「教訓化」「物語化」という3タイプの形式知を紹介しましたが、筆者が特に勧めたいのが「物語化」です。

ここで誤解してほしくないのは、この場合の「物語」の中心にあるのは「会社で起きた出来事」ではなく、「その当事者たち」である点です。

(1)NHK『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』に感動する理由

当事者たちの物語が求められる理由を、NHKのテレビ番組『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』の例で説明します。

『プロジェクトX』は人々の記憶に残る社会的な出来事を題材に、それに関わった無名の人々の知られざる活躍を描いたドキュメンタリーです。視聴者がこの番組に感動するのは、「有名な出来事」の物語ではなく、そこに関わった「無名な人々」の物語となっているためです。

社会的な出来事の裏側で、無名な人々(=普通の人々)が困難・対立・葛藤を乗り越えながら、大きな仕事を成し遂げる姿に、視聴者は感動し、勇気づけられます。さらに、その姿を自分に投影し、「自分も頑張ろう」とポジティブな気持ちになることができるのです。

(2)自社の先輩たちの物語だからこそ、現役社員が自己投影しやすくなる

『プロジェクトX』における「無名の人々」の物語に相当するのが、自社のターニングポイントとなった出来事における「当事者たち」の物語です。

出来事の当事者(会社の先輩)が主人公なので、現役社員たちは物語を身近に感じると同時に、主人公目線で物語の内容に没入することができます。その結果、「もし自分が当事者ならばどうするだろうか」「同じような状況が自分にも起こるかもしれない」といった自己投影をしやすくなり、その物語に反映された「自社らしさ」を自分事として認識しやすくなります。

物語化の効果

5.「歴史」の資産化~ステップ3:次世代へ継承する

「歴史」の資産化の第3のステップは、「次世代へ継承する」です。情報編集における「情報発信・活用」に相当するステップです。ステップ2の成果物を用いて、「自社らしさ」を現役社員に継承するものです。言い換えれば、「自社らしさ」というバトンを会社の将来を担う現役社員に渡すフェーズです。

ステップ2で制作物を完成し、それを配布・共有すれば、それで現役社員に継承できると考える経営者がいるかもしれません。しかし、それだけでは歴史から抽出した「自社らしさ」が現役社員にとって「自分事」にならないでしょう。

「自社らしさ」を現役社員にとって自分事にするためには、制作物を用いて「自社らしさ」をテーマに、現役社員がコミュニケーションをとる機会を設けることが有効です。リレーのバトンパスを成功させるためには、渡し手と受け手の呼吸合わせが大切であるように、「自社らしさ」のバトンパスにも呼吸合わせが必要となります。「自社らしさ」をテーマとしたコミュニケーション機会は、そうした呼吸合わせの場となります。

ステップ3:次世代へ継承する

いくつか具体的な取り組みを挙げておきます。

5-1. ワークショップ開催

「自社らしさ」の継承をテーマにしたワークショップの開催を推奨します。ワークショップの内容は、いろいろ考えられますが、ここでは2つの展開方法を紹介します。

(1)KPT法

第1の方法はKPT法を用いるものです。制作物に示された「自社らしさ」について、現役社員が「Keep(維持すべきこと=うまく継承できていること)」「Problem (改善すべきこと=うまく継承できていないこと)」を明らかにし、それを踏まえて「Try(今後やるべきこと)」を検討します。

KPT法によるワークショップ

(2)フューチャーサーチ風

第2の方法は、組織開発で用いられるフューチャーサーチと呼ばれる手法を、簡便にして用いるものです(本来のフューチャーサーチとは異なる部分もあるので「風」としています)。制作物に示された「自社らしさ」をベースに、現役社員が自社の過去と現在について話し合い、それを踏まえて会社や自分の未来がどうあるべきかを描き出します。

フューチャーサーチ風によるワークショップ

5-2. その他

ワークショップ以外の取り組みについて紹介します。

(1)創立記念日イベント

創業の精神に「自社らしさ」が色濃く埋め込まれている会社などでは、創立記念日を創業時のエピソードなどを全社員で共有する機会にするのもよいでしょう。

(2)朝礼、定例ミーティングの活用

制作物を手帳などのかたちで配布している企業であれば、朝礼、定例ミーティングなどの機会にみんなで手帳を開き、その内容を確認する時間を設けてもよいでしょう。いつでも手の届くところに手帳があり、頻繁にそれを開き、確認することで「自社らしさ」が一人ひとりにとって当たり前になっていきます。

いつでも手の届くところに手帳があり、頻繁にそれを開き、確認する

(3)「歴史の資産化」プロジェクト

ここまで見てきたステップ1から3までの流れを1つのプロジェクトと考え、次世代リーダーなどを中心に部門横断的なプロジェクトとして取り組ませる方法もあります。現役社員自身が「歴史の資産化」推進の中心となることで、そこで明らかにされた「自社らしさ」へのコミットメントも自ずと高くなります。先に述べたバトンパスの例でいえば、プロジェクト自体が「自社らしさ」というバトンを渡す呼吸合わせの場として機能することになります。

このように自社らしさを社員の「自分事」まで落とし込むことで、日々の業務で自社らしさを発揮すると同時に、採用、営業など社外向け活動でも自社らしさを魅力的に訴求しやすくなります。

以上、自社の歴史の資産化について整理してきました。
貴社も未来のために自社の歴史の掘り起こしを検討してみませんか?
経営者や現役社員も気づいていない価値が眠っているかもしれません。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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